高級時計が欲しくなると、いつもまずはスイスの時計ブランドの中から探し始めてしまいます。
しかし、ムーブのクオリティやケースの仕上げ、ブレスの装用感、そしてクオリティと価格のバランスを考えると、どの時計もいまいち決定打に欠けると感じる面もまたあります。
そこで国産時計に目を向けてみると、どうでしょう。一見するとごく普通に見えるこの時計ですが、細部に目をやれば、凝った造形のケースに美しく施されたザラツ研磨。岩手の雫石で組み上げられ、十分な精度を備えたムーブメント。独立3連駒のブレスは、そのひとつひとつが僅かに湾曲し、やさしく腕にフィットします。
裏側に目をやれば、これまた美しく研磨されたシースルーバックの裏蓋。よく見ればガラスには獅子の紋章がレーザー刻印されています。周囲には控えめながら装飾が施され、もはやジュエリーとも呼べる美しさです。
また、ザラツ研磨と対になるサテン仕上げも、ロレックスやオメガのそれとは違い、どこか温かみを感じる仕上げになっています。
ブレスの仕上げも素晴らしく、駒のひとつひとつがしっかり面取りしてあり、どこに触れても引っ掛かりを感じません。クラスプの端がテーパー状になっていて、手首への肌当たりが良くなるよう仕上げられている点も、見逃してはいけないポイントです。
このクオリティの時計をスイスで製作すれば、少なくとも2倍くらいの価格になるのではないでしょうか。本当に素晴らしい時計だと思います。
高級時計メーカーではなく、いわゆる総合時計メーカーであるセイコーだからこそ、作り得る時計なのだと思います。
トヨタのクラウンのように、ホンダのスーパーカブのように、使う人のことを考えて細かいところまで作り込まれたこの工業製品は、まさしく日本の良心の塊と言えると思います。
ただ一点だけ、決定的な欠点を挙げるとすれば、その素晴らしいブレスが微調整に対応していないことです。
半コマはありますが、それ以上の細かい調整はできません。
実際に私の場合も、半コマ抜くとややキツく、入れるとゆるいという感じで、ジャストフィットを得ることはできませんでした。
今回お借りしたのがケース径38ミリのモデルでしたので、これが40ミリになれば、ラグtoラグの長さも変わり、フィット感がより良くなるのではと期待しています。